IPsec ( Security Architecture for IP )



 ◆ IPsecとは

 IPsecは、暗号化システムの技術によりネットワーク層にて、データのセキュリティを保護するのに使用
 されるプロトコルです。 IPsecは、AH、ESP、IKEなどのプロトコルから構成されています。このIPsecを
 使用したVPN接続により、インターネットなどの公共インフラでも安全に通信することが可能になります。



 ◆ IPsecの動作するレイヤー

 IPsecはネットワーク層で動作するので、上位層であるトランスポート層でTCPであろうがUDPであろうが
 問題なく動作するし、制限もない事から特定のアプリケーションに依存しません。ただしネットワーク層は
 
IPである必要があります。ちなみにIPsecとは関係ありませんが、SSLはセッション層で動作します。そして
 ネットワーク層は
IP、トランスポート層はTCPである必要があります。このためTCP/IPを利用するすべての
 アプリケーションは「HTTP/FTP/SMTP」など利用できますが、UDPのアプリケーションは使用できません。


         

 
※ SSLは、正確には、トランスポート層とセッション層の境界で動作します。


 ◆ IPsecを構成する2つのプロトコルと鍵交換のプロトコル

 IPsec自体は、その名のとおり、セキュリティのアーキテクチャです。IPsecは
AHESPIKEなどの複数の
 プロトコルから構成されています。AHは「Authentication Header」の略であり、その名の通り、認証機能
 を持っています。ESPは「Encapsulated Security Payload」の略であり、ペイロード部に対して暗号化を
 行うことができます。IKEは「Internet Key Exchage」の略であり鍵交換を行う事ができるプロトコルです。

IPsecプロトコル 役割 プロトコル種別
AH

 ・ パケットが改ざんされていないかどうか認証を行う。(HMAC)
 ・ パケットの暗号化はできない。

IPプロトコル番号 51
ESP

 ・ パケットが改ざんされていないかどうか認証を行う。(HMAC)
 ・ パケットのペイロード部の暗号化 ( DES or 3DES or AES ) を行う。

IPプロトコル番号 50
IKE

 ・ 秘密鍵情報の交換を安全に行う。IKEは [ ISAKMP/Oakley ] のこと。
   つまり、ISAKMPプロトコル上でOakley鍵交換の手順を実装したもの。
 ・ Diffie-Hellman鍵交換のアルゴリズムはOakleyコンポーネントの1つ。

UDPポート番号 500


 RFC2406とRFC4303形式のESPには認証トレーラ機能があります。これにより、AHを併用しないで
 改ざん防止をできます。従ってIPsecは、AHなしで、ESPとIKEだけでも構成することができるのです。
 ただしESPの認証トレーラ機能では、IPヘッダの部分まではその完全性を保証することはできません。

 また、ESPが全てのセキュリティサービスを実装できるにも関わらず、AHも実装させることがある理由は
 AHがESPより負荷がかからない、AHに輸出規制がない、AHはIPv6コンプライアンスに必須である事です。
 
※ 現在の日本におけるIPsec-VPNといえば、AHを使用しない「ESPとIKE」だけによるIPsec-VPNが一般的な実装方式と言えます。


           


AHの各フィールド 各フィールドの説明
Next Header  AHの後にくるプロトコルのタイプ(TCP/UDPなど)を示すフィールド。
Payload Length  AHの長さを示すフィールド。
Reserved  将来用に予約されたフィールド。0 に設定されている。
SPI  そのパケットに利用されている SA( Security Association )を示すフィールド
Sequence Number  各パケットに割り振られるシーケンス番号を示すフィールド。これによりパケットリプレイを防止可。
Authentication Data  そのパケットのHMAC値が示されたフィールド。その値は ICV(Integrity Check Value)と呼ばれる。



            


ESPの各フィールド 各フィールドの説明
SPI  そのパケットに利用されている SA( Security Association )を示すフィールド
Sequence Number  各パケットに割り振られるシーケンス番号を示すフィールド。これによりパケットリプレイを防止可。
Payload Data  Next Headerのフィールドで定義されるデータを含む可変長フィールド
Padding  ペイロードデータの長さをアルゴリズムが要求するサイズまで調節するための調整用フィールド。
Pad Length  Paddingバイトのバイト数を示す。
Next Header  ESPの後にくるプロトコルのタイプ(TCP/UDPなど)を示すフィールド。
Authentication Data  そのパケットのHMAC値が示されたフィールド。その値はICV(Integrity Check Value)と呼ばれる。




 ◆ IPsecを理解するための全体イメージ

 先の説明どおり、IPsec自体はセキュリティアーキテクチャなので下図の通り枠組み規定しているだけです。
 従って、IPsec通信の際に実際に使用するプロトコル、暗号化アルゴリズムを選択していく必要があります。
 例えば上記説明したIPsecプロトコルにはAH、ESP、AHとESPの3つの選択肢があるのでそれを選択します。
 その他にも、この後のIPsecの解説を読めば分かると思いますが、暗号化、認証、鍵交換などを選択します。


       


 実際にCiscoルータなどでIPsecのための設定を行う際に、上図のキーワードを入力していくことになります。



IPsec、IPsec-VPN、リモートアクセスVPN

ネットワークエンジニアとして

Copyright (C) 2002-2024 ネットワークエンジニアとして All Rights Reserved.