◆ MPLS-VPN:Super Backboneとは
Super Backbone(スーパーバックボーン)とは、OSPFを利用したMPLS-VPNへの接続環境において、
MPLS網がバックボーンエリア( エリア 0 )のように動作する拡張アーキテクチャのことです。これは
エリア0のように動作することから、Super Backboneは「疑似的なエリア0」や「エリア0の親エリア」
などと説明されることがあります。Super Backboneは、MP-BGPとPEルータ間で実装されます。
このSuper Backboneのアーキテクチャにより、PEルータはABRのように動作することができることから
以下で解説するOSPFスタブエリアに関する問題を解消することができます。
◆ MPLS-VPN:OSPFスタブエリアに関する問題点
MPLS-VPNで、CE側にOSPFスタブエリアを設定する場合は注意が必要です。先ず前提知識を解説します。
OSPFスタブエリアではABRから「LSAタイプ3エリア間ルート」と「デフォルトルート」を受け取れます。
デフォルトルートは、LSAタイプ 5 の外部ルートの代わりにアドバタイズされます。これが前提知識です。
それでは、下図でMPLS-VPNでCE側にOSPFスタブエリアを設定する場合の問題点を見ていきましょう。
下図では、Area20がスタブエリアです。Area10のルート情報がArea20に対してアドバタイズされると
Area10のルート情報は、PE1ルータ内部でBGPへ再配送されます。そのルート情報を受信したPE2では、
PE2のBGPからVRF上のOSPFへ再配送されます。その結果、Area10のルート情報は本来のタイプである
InterAreaルート(LSA Type 3)ではなく、外部ASのルート(LSA Type 5)に変換されます。そして、
Area20がスタブエリアである場合、LSA Type 5のルート情報はデフォルトルートに変換されることから
Area10のルート情報を正確に認識することができなくなります。
このように、MPLS-VPN環境でOSPFスタブエリアを構築することで、再配送によるルート情報が正しく
アドバタイズされない問題が発生しますがその解決策がSuper Backbone(スーパーバックボーン)です。
◆ MPLS-VPN:Super Backboneによる解決
OSPFを使用したMPLS-VPNではMPLS網が疑似的なバックボーンエリア(疑似的エリア0)として動作する
Super Backboneの拡張アーキテクチャが実装されています。このSuper Backboneにより、各PEルータは
OSPFにおけるABRのように動作することになります。※ Super BackboneはMP-BGPとPEルータ間で実装。
概念図としては下図の通りです。Super Backbone = Area0ではなく、Area0の親エリアのような位置づけ。
それでは詳細に見ていきましょう。
Super Backboneでは、BGP拡張コミュニティを利用してその動作を実現しています。下図のPE1ルータは
OSPFルートをBGPへ再配布する際にプレフィックスにDomain IDとRoute TypeのBGP拡張コミュニティ
を付与します。Domain IDには「OSPFプロセス番号」が含まれています。Route Typeには「LSAタイプや
外部ルートのタイプ」などの情報が含まれています。
ピアとなるPEルータがBGPルートをOSPFへ再配布する際に、Domain IDが同じ場合はRoute Typeの情報に
従ってOSPFのLSAタイプを適切な値にセットします。つまり、PEルータはMP-BGPで受信したルート情報が
もともとOSPFエリア間ルートである場合は「LSA Type 3」として転送し、もともとOSPF外部ルートである
場合には「LSA Type 5」として転送します。
なお、Domain IDが異なる場合にはRoute Typeの情報に関係なくLSA Type 5を生成することになります。
◆ MPLS-VPN:Super Backboneの設定
MPLS-VPN網をスーパーバックボーン(エリア0)として動作させるためには、VRFのOSPFプロセス番号を
ピアとなるPEルータのVRFと同じにする必要があります。対向のPEルータとでVRFのOSPFプロセスが同じ
であれば設定は不要でありSuper Backboneとして動作します。※ PEルータのグローバルルーティングの
OSPFプロセス番号、CEルータのOSPFプロセス番号には制約はありません。
例えば、以下のMPLS-VPN検証構成とコンフィグでは、VRFのOSPFプロセス番号をピアとなるPEルータの
VRFと同じに設定していることから Super Backbone が動作します。OSPFを利用したMPLS-VPNへの接続
における基本構成(推奨設定)としているので、まずは以下の3つの記事で学習して頂ければと思います。
⇒ MPLS-VPN 検証構成とコンフィグ設定 (PE-CE間でOSPFを使用)
なお、VRFのOSPFプロセス番号がピアとなる対向のPEルータと異なる場合でも domain-id コマンドにより
Domain IDを同じにすることでプロバイダ網をSuper Backboneとして動作させることもできます。例えば
以下ではDomain IDを「99」に設定しています。
PE1(config)# router ospf 1 vrf CUSTA
PE1(config-router)# domain-id 99
PE2(config)# router ospf 2 vrf CUSTA
PE2(config-router)# domain-id 99
Super Backboneが動作している際のCE側のルーティングテーブルでは、スタブエリアであった場合でも
対向拠点のルート情報が「O IA」でIntra Areaとして表示されていることを確認できます。
なお、Route Type(BGP拡張コミュニティ)には以下のような情報が含まれています。
フィールド |
バイト数 |
説明 |
コミュニティタイプ |
2 |
0x8000がセット |
OSPFエリア |
4 |
MP-BGPへ再配送されるルート(プレフィックス)のOSPFエリア番号 |
LSAタイプ |
1 |
MP-BGPへ再配送されるルート(プレフィックス)のLSAタイプ番号 |
Option |
1 |
最下位ビットが0の場合 Type1(E1)、最下位ビットが1の場合 Type2(E2) |
|